ボストンの歩き方

2016年MIT入学の学部二年の日記帳

トキソプラズマとマラリア原虫

大学でとってよかった授業のコーナー第一弾!

 

大学二年生の秋学期。友人にめっちゃ面白そうな授業があるから一緒に受けようと言われ、時間通りに教室にいくとまさかの僕一人。僕たち以外に受ける人がいず、しかも友達もぶっちをするという惨事になったのです。

そもそもこの授業何の授業なのか知らんけど、やっぱり帰りますとも言えない状況。そして始まったのがこの授業:7.343 Host Pathogen Interactions: Biology and Disease of Parasitic Manipulations です。このクラスはおそらく今までとった授業の中でもっともマニアックなものとなっていました。内容はずばり、マラリア原虫とトキソプラズマがどのように宿主細胞内で生き抜くかというもの。

それ面白いの?と思うかもしれませんが、むちゃくちゃ面白かったです。これらの寄生虫の研究の初期から現在にいたるまでのマイルストーンとなる論文を時系列順に毎週3本ほど読みディスカッション。そしてそれを教えるのはトキソプラズマを実際に研究している現役の研究者二人。生徒は結局僕一人だけだったのでマンツーマンならぬツーツーマン体制でいろいろな議論ができました。いろいろな論文のデータをディスりまくっている二人を見るのは結構楽しかったです。もちろん理不尽な罵倒ではなく、同じ結果を導くならこういう実験の方が美しい、といったような研究者の哲学が見れる批評で非常に勉強になったわけです。

 

そして内容もとにかくおもしろい。これらの寄生虫は細胞の中にいるのがばれないように特殊な膜(PV, Parasitophorous Vacuole)で自分を覆っています。透明マント的な感じですね。まずこれがどのようにばれないかという分子機構がおもしろい。(細かい話は割愛しますが、寄生虫は細胞の細胞膜を使ってこの特殊な覆いをつくるのですが、その際に膜に含まれるタンパク質を選別することでリソソームとの融合を防ぐのです。) 

しかし面白くなるのはここから。いったん透明マントをしたものはいいものの、今度は居心地が悪い。寄生虫も生き物ですから、食べなきゃいけないし、排せつもします。寄生虫がずっとこの透明マントに包まっていては中に老廃物はたまり、エネルギー源もすぐに枯渇してしまいます。ここですごいのが、なんとこの透明マントはうまくできていて、必要なアミノ酸を選択的に取り込んだり、老廃物を選択的に外に排出したり、さらには宿主のミトコンドリアを集めてエネルギーを横取りしたりできるんです。

さらにさらに、こいつらは宿主である細胞自体をいじるんです。トキソプラズマは住んでいる細胞の細胞周期を留めます。マラリア原虫は宿主細胞膜をいじって脾臓で壊されないように改造します。トキソプラズマはさらに宿主の脳に入りこみ行動までその生物の行動まで改変するというのです。

 

これらの発見がどのようになされていったのかというトキソプラズママラリア原虫研究史を疑似体験したような授業でした。興味がある人用に下にいくつか論文を貼っておくので興味がある人は読んでみてください!

 

透明マント( Parasitophorous Vacuole)に関する初期の論文

Mordue, D.G., Desai, N., Dustin, M. and Sibley, L.D. (1999). “Invasion by Toxoplasma gondii establishes a moving junction that selectively excludes host cell plasma membrane proteins on the basis of their membrane anchoring.” The Journal of Experimental Medicine, The Rockefeller University Press, Vol. 190 No. 12, pp. 1783–1792.

 

いかにミトコンドリアを集めるかの論文

Kelly, F.D., Wei, B.M., Cygan, A.M., Parker, M.L., Boulanger, M.J. and Boothroyd, J.C. (2017), “Toxoplasma gondii MAF1b Binds the Host Cell MIB Complex To Mediate Mitochondrial Association.” mSphere, Vol. 2 No. 3.

 

マラリア原虫が蚊の行動をコントロールしているという論文

Emami, S.E., Lindberg, B.G., Hua S., Hill, S., Mozuraitis, R., Lehmann, P., Birgersson, G., Borg-Karlson, A.K., Ignell, R. and Faye I. (2017). “A key malaria metabolite modulates vector blood seeking, feeding, and susceptibility to infection” Science, pp. 4563–10.

 

ではでは、