ボストンの歩き方

2016年MIT入学の学部二年の日記帳

0とハチ

先々週のScienceに面白い論文が載っていたので今日はその紹介!

題名は"Numerical ordering of zero in honey bees." なんと、ミツバチがゼロの概念を有しているという論文です。題名だけで結構びっくりなのですが、そもそもそれをどうやって調べるんだ、、というのも謎ですよね。今回はこの論文のメインポイントを要約しようと思います。

 

1. 0とは

0を理解する、という認知行動は大きく分けて4つのステージが存在します。まずは刺激が存在しないという知覚(sensory representation)。例えば暗闇は光という刺激が存在しない、などとても大きな意味での0の認識です。この場合暗闇を認識しているというより、光に反応するニューロンが休んでいるという方が正しいです。それに意味付けをするのが二段階目(categorical representation)です。暗闇で単にニューロンが活性化していないのではなく、「ここは光という刺激がないのだ」と刺激のなさに意味付けをできるという能力です。更に高等な認識能力として、3つ目のquantitative representationがあります。これは0を量である、と認識することです。例えば暗闇、光量1の光、光量2の光を与えたときに暗闇、光量1、光量2の順に明るくなっていくと理解するということになります。逆にこの能力がないと光量1と光量2の関係がわかっても、暗闇が光量1の光の光量を少なくした結果起こる現象とは理解できないわけである。そして最も高等な認識レベルはmathematical representationで、アラビア数字など記号としての0を認識することである。

 

2. ミツバチの場合

本論文で筆者たちは古典的条件付け(classical conditioning)を使って実験を行っています。

第一の実験ではまずミツバチを訓練させます。大きい方を選ぶ訓練群(以下A群)では、2から5個のマークがついた標識をみせ、一番大きい数のところにはおいしいスクロース溶液、それ以外にはまずいキニン溶液を置いておきます。このようにしてミツバチに大きい数を選ぶ指向性を植え付けるわけです。同様に小さい方を選ぶ訓練群(以下B群)も用意しています。実際にこいつらに新しい刺激(例えばマークが正方形ではなく円形)を与えてもしっかりと訓練された数の方を選ぶようになります。そしてこのミツバチに何もマークがない標識といくつかマークがある標識をあたえたところ、A群ならマークのある標識、B群なら何もマークがない標識を選ぶという結果が出ます。

これだけでもミツバチが0を定量的に認識していることの強い証拠になりますが、筆者たちはつぎに0と1の区別ができるかを調べています。これは、他の動物で0と1の差を認識できないものが知られているからです。上記と同様の実験をすることで、ミツバチは0と1を認識することが確認されました。ただ、B群において0と2を比べさせたところ、結果は半々というものでした。これは訓練時に最も小さい数が2だったため、「2があれば2を選べ」というように条件付けされてしまっていハチがいることを示します。この結果はイルカなどでも同様だそうです。

最後の実験として、実際に0を数列の一部として認識しているか確定させるため、numerical-distance effectを検証しています。これは、もし実際に数列を認識しているのであれば、二つの刺激の差が大きいほど、正解率があがるはず、というのものです。実際にデータを比較すると、もう一方のマークの数が大きくなればなるほど、B群は0を選ぶ割合が増えているのが検証されています。

 

このように0の認識という抽象的な問題をしっかり定量的な実験に落とし込んでいるのって美しくないですか?僕は結構感動しました。以下にこの記事を書くにあたって参考にした論文を貼っておきます。

 

Howard, Scarlett R., et al. "Numerical ordering of zero in honey bees." Science 360.6393 (2018): 1124-1126. (これが本論文)

Nieder, Andreas. "Representing something out of nothing: the dawning of zero." Trends in cognitive sciences 20.11 (2016): 830-842.

Avarguès-Weber, Aurore, et al. "Aversive reinforcement improves visual discrimination learning in free-flying honeybees." PLoS One 5.10 (2010): e15370.

 

ではでは、