ボストンの歩き方

2016年MIT入学の学部二年の日記帳

除毛クリームは怖いなあっていう話

最近、研究の性質上、ほとんど毎日マウスの手術をしています。これが結構疲れます。人間の手術はしたことがないので比べられませんが、やっぱり小さい生き物を扱うというのは難しいわけで、特に手術部位以外を傷つけないように手元に細心の注意を払って作業をするとほんの30分でも手がつりそうになっちゃいます。これを一日3,4匹やったりするので大変。監修してくれてるラボの人はバリうまくて僕の半分以下の時間で終わらせているので頑張りたいなあと思う次第です。

 

さて、手術をする際いつも気になっていること。皮膚にハサミを入れる前に手術部位にピンク色のクリームを塗ります。除毛クリームですね。手術する部位に毛が生えているとハサミを入れづらかったり、腹腔に毛が入っちゃったりするので毛を取り除いておくことはとても重要です。僕も去年の秋、大腿四頭筋をきって結構大きな手術をしたのですが、このとき膝周辺の毛をそられてそのあと一か月くらいつるつる美肌を有していました。まあそんなことはいいんですが、この除毛クリームの効きがえぐい。綿棒の先にこのクリームをつけて皮膚の上で転がすとみるみるうちにマウスの毛が抜けてあっという間に素肌が出てくるのです。使っているのは人間用の除毛クリームなのですが、こんなものを自分の肌につけるって怖いなあと思うわけです。

 

そもそもこの除毛クリームはどういうメカニズムで働いているのかが気になりました。調べてみたところクリームの主成分はチオグリコール酸(TGA)のカルシウム塩だそうです。チオグリコール酸はメルカプト酢酸としても知られ、非常に強い還元剤です。工業の場面では、TGAの誘導体が塩化ビニル合成時の安定剤として使われたりしますが、もっと身近な場面ではパーマに使われます。除毛クリームもパーマとほぼ同じで、毛を構成するケラチンというタンパク質に多く見られるジスルフィド結合(システイン間での硫黄原子同士の結合)を切って(正確には還元して)毛を溶かしているようです。

ジスルフィド結合は皮膚よりも毛に多く含まれるので同じタンパク質でも皮膚はあまり溶かさないようですが、それでもこんなに効きがいいと怖いですね。

 

自分で除毛クリームを使うことがあるかはわかりませんが、使うときは気を付けたいと思いました。

 

では、