ボストンの歩き方

2016年MIT入学の学部二年の日記帳

Piggybacとトランスポゾン

分子生物学の世界の発展はめまぐるしいもので、ゲノム編集技術など様々なツールが使いまくれる状況にあります。バイオテック系のスタートアップも数多く存在することでツールの幅は日々広がっているわけです。

このような中で名前がかわいいなと思ったのがpiggybacです。僕も研究で使っていて使い心地もいいのですが、メカニズムもかっこいいので紹介したいと思います。

 

 

1. Piggybacって何をするの?

この技術は簡単に言ってしまえばゲノム編集技術の一つです。トランスポゾンを使い、目的の遺伝子を細胞のDNAに組み込むことができます。例えば、めっちゃシンプルな例ですが、細胞を緑に光らせたい!と思ったらGFPという緑色に光る蛍光タンパク質の遺伝子をPiggybacを使って細胞に入れちゃったり。まあそんな感じです。

 

2.Piggybacの仕組み

Piggybac(PB)の仕組みを理解するにはトランスポゾンが何かということを知る必要があります。トランスポゾンとは一言でいえば動く遺伝子です。染色体上を飛び回る遺伝子ということ。このような動く遺伝子には2種類あります。まず一つ目が今回のテーマとなるトランスポゾン。これはトランスポザーゼという酵素をコードする遺伝子がinverted terminal repeat sequences (ITR)という反復配列に挟まれている塩基配列です。この遺伝子が転写・翻訳されてできたトランスポザーゼは自身の配列を染色体から切り出し、別の部分に移動させます。カット・アンド・ペーストのような感じですね。

今回は書きませんが、二つ目のレトロトランスポゾンは逆転写酵素をコードした配列です。逆転写酵素は自身のmRNAをcDNAに逆転写し、別の染色体の部分に貼り付けます。つまりこいつが機能するごとにどんどんコピーが増えていくというコピー・アンド・ペースト式です。これがレトロウィルス(HIVなど)の起源であると考えられています。お察しの通りこいつらがいると遺伝子がいずれ埋め尽くされちゃいそうですよね。レトロトランスポゾンは植物に多いのですが、例えばトウモロコシのゲノムの90%はこれだと言われています。(実際、レトロトランスポゾンを発見して1983年にノーベル賞をもらったBarbara McClintockもトウモロコシの研究者でした。ちなみにこの人はDNAの構造が分かる前の1940年代に論文を発表していますが、あまりにも突飛な発想であることや女性蔑視の影響で発見から40年後の受賞となっています。)

さて、Piggybacを使う場合、細胞にPiggybacトランスポザーゼと、ITRに挟まれた目的遺伝子を導入します。普段はITRの間にはトランスポザーゼが挟まれているため自分を移動させることになりますが、この場合は代わりに目的遺伝子が動かされるということになります。Piggybacトランスポザーゼは染色体のTTAA領域にITRに挟まれた遺伝子を動かす働きがあるため、細胞の染色体に新しい遺伝子を組み込むことができるのです。

 

3. さらに工夫はなされているわけで

これだけでも賢いなあと思うわけですが、注意深い人は、例え一回染色体に組み込まれてもトランスポザーゼがもう一回この部分を認識して切り出してしまうんじゃないの?と気づくかもしれません。それを防ぐためにこのPiggybacトランスポザーゼ(integration PB transposase)は染色体に埋め込むことしかしません。逆に細胞の染色体から目的遺伝子を切り出したいときは excision PB transposaseを与えればいいのです。

さらにさらに、ITRの間にcumate switch配列が含まれているバージョンも販売されています。これはcumateという物質を与えたときのみ組み込みが行われるというもので組み込みのタイミングをコントロールできるわけです。

 

このように生命現象として発見されたトランスポゾンを便利なツールとして使うのはめちゃくちゃ面白いですよね。

 

使用マニュアル

 

ではでは、