ボストンの歩き方

2016年MIT入学の学部二年の日記帳

世界遺産101: 登録基準6

昨日の続きです。

 

前回は世界遺産登録までの流れや、その登録基準についてみてきましたが、登録基準6について。

この登録基準6は「 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの」なわけですが、これって結構広いことを言ってますよね。実際、登録基準6に当てはまる遺産は「文化交流の証拠」や「ある文明のまれな証拠」、「時代を例証する建築様式」、など他の登録基準と合わせて申請されることがほとんどです。

では逆に、登録基準6だけで申請される遺産とは何なのでしょうか。普遍的な意義を有するものの、文化交流や文明を象徴するとはいえない出来事の象徴、そう、いわゆる「負の遺産」です。一般に負の遺産とは、過去に起こった繰り返されてはいけない過ちを象徴する遺産の通称で、ビキニ環礁や原爆ドームなどがこれにあたります。そしてこの原爆ドームこそ現在の登録基準6の特別条件導入のきっかけとなったわけです。

原爆ドームは言うまでもなく、第二次世界大戦におけるアメリカの原子爆弾の使用を象徴する遺産で、科学の非人道的行為への使用や戦争の悲惨さを今に伝えています。この遺産が世界遺産委員会に持ち上げられたのが1996年なのですが、これに対する反発が多かったことは想像に難くないでしょう。アメリカは、登録内容から人類史上初めての核兵器使用を物語るという文言の削除を要求し、中国は議論から棄権。様々な紛糾の末、原爆ドームは登録にこぎつけたのですが、高度に政治的な問題になる可能性を考慮した世界遺産委員会はこれ以降の登録基準6の単独使用を禁止したのです。

 

しかし、しかし、話はここで終わりません。1999年、南アフリカがロベン島を世界遺産に推薦します。これはネルソン・マンデラらも収容された政治犯のための牢獄で、アパルトヘイトを象徴する負の遺産です。しかし、もちろん当時登録基準6だけでは申請できませんから、南アフリカは登録基準3(「文化的伝統、文明の証拠」)と合わせての申請を行います。この政治犯収容施設を文化的伝統と呼ぶのはいささか解釈が広すぎるわけで、これではルールが形骸化していると議論になったわけです。結果として、世界遺産相当な遺産をこじつけないと世界遺産申請できないルールが悪い、ということになりルールが緩和されました。

 

このような背景を経て、現在は登録基準6は他基準との併用が望ましいという指針になったわけです。

さてさて今日で終わると思っていた記事ですが、案外長くなってしまったので、明日シリーズの一端の最終回、今年の世界遺産委員会のおもしろ話について書きたいと思います。

ではでは、