ボストンの歩き方

2016年MIT入学の学部二年の日記帳

trebuchet

大学でとってよかった授業のコーナー第三弾:解析力学

 

これは、8.123: Classical Mechanics 2としてIAP(1月学期)でのみ受講できる一か月だけの物理の授業。物理専攻じゃなかったらとらなくていい授業ですが、面白そうなので取ってみました。

 

解析力学って何って思うかと思います。力学っていうのは物がどう動くのかを計算したりする物理学の領域ですが、そのなかでも解析力学は古典力学に入ります。これは言ってしまえば昔ながらの力学で、めちゃくちゃ小さいものをみたときに考えなくてはならいない量子力学を含まない考え方ということです。

高校で物理をやるとニュートンの法則というのを習うと思います。第一から第三までの法則があって、それをもとにいろいろ計算しますよね。これはニュートン力学という古典力学で、運動方程式F=ma(ニュートンの第二法則)がすべてのもととなっています。

これに対して解析力学、とくにラグランジアン力学はこの式を変形した別の式を運動方程式とします。要は別の前提をもとにした、別角度から見たニュートン力学のようなもの。ただ、その別角度が結構鋭いため、高校時代いにめんどくさい連立方程式を立てて解いていた物理の問題が一行で解けたりするようになるのです。

 

正直僕はこの授業のレクチャ―に出ていませんでした。毎朝9-12時なんて起きれません。ただこの授業の面白いとこは最終課題が、何種類か選べるプロジェクトだということです。僕が選んだ課題は投石機(trebuchet)をつくるというもの。投石機とは中世の戦争とかでどでかい岩を相手のバリケードに投げてぶっ壊すための兵器です。この物理学は高校までのニュートン力学だと計算が結構面倒なのですが、ラグランジアン力学を使うと簡単になります。このプロジェクトでは投石機の最大飛距離を計算して、実際に機械をつくり、その理論限界にどれだけ近く飛ばせるかで得点が決まるというものです。なので一月の最終週は工作室に友達とこもって木をけずり、角度を調整し、1.5mくらいの機械を作りました。しかしこれをちゃんと飛ばすのがマジで難しく、岩の重みに機械が耐えられなかったり、まっすぐ飛ばなかったりで飛距離の撮影にも丸一日かかってしまいました。でも物理学の授業でこれだけ体使うものはなかなかないと思います。高校時代文化祭でひたすら木工作業をしていたのを思い出し、懐かしくなったボストンの冬でありました。

 

ではでは、

Sous Vide Egg Bites

お久しぶりです。ここ数日ごちゃごちゃして時間がなかったのであります。

さてさて、僕は最近スタバにはまってます。これは先学期からなのですが、なんとなく雰囲気が好きになりました。高校時代あんまりカフェで勉強をしてこなかったため憧れがあったのかもしれませんが、最近は実験が終わってジムなどに行った後、スタバに行き、そこで閉まるまで1,2時間ダラダラするというのが常です。まあ暇人だからなせる業ですね。

そこで気づいたことがあります。ついこの間まではどこかで夜ご飯を食べてからスタバに行っていたのですが、これだとスタバでのダラダラ時間が減ってしまいます。ならばスタバで食べればいいじゃないということです。割高なイメージのスタバでの食事ですが、夜ご飯と考えると安いもんです。スタバの食べ物(日本と同じかはわかりませんが)は小さめのサンドイッチがほとんどです。そのなかでひときわ目立っているのが、Sous Vide Egg Bitesというものです。最近発売が開始された商品で、見た目はふわふわの小さいプリンといった感じですが、卵黄とチーズとベーコンが入っているという謎の物です。最初はただ発音するのが楽しくて注文していましたが、徐々においしさに気づき始めました。グルタミン酸的なうまみっぽい味わいがあるのです。

 

そうやってSous Vide Egg Bitesを毎日のように食べるようになったのですが。ある日、気分転換に卵サンドイッチっぽいものを頼みました。そして食べてみるとなんとSous Vide Egg Bitesの同類みたいなのがパンではさまれているだけでした。Sous Vide Egg Bitesの方が売り出されたのは後なので、要は今までサンドイッチのパンとったものを毎日食べていたんですね。

ちょっとむなしくなりました。

 

ではでは、

世界遺産101: 戦争遺産と政治性

さて、世界遺産特集第一弾の最終回、ということで今月上旬までバーレーンで開かれた第42回世界遺産委員会について。今回の世界遺産委員会と言えば日本で22個目の世界遺産である長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産が登録されたことが話題になっていると思います。結果としては全体で新しく文化遺産13件、自然遺産3件、複合遺産3件の計19件が登録となったわけですが、それにしても複合遺産3件というのは多いですね。複合遺産は全部合わせて計38件しかありませんから。僕的には日本にも複合遺産があったらいいなあと思うわけですが、現実的には候補がないというのは実情でしょう。

 

そんな中が僕が注目したのは本会議というよりも、その前に世界遺産申請された遺産です。実は今回本会議、さらに遡って諮問機関が勧告を出す前に審議を辞退した遺産が二つあります。ドイツのHamburg-Altona とフランス・ベルギー共同推薦のFuneral and memorial sites of the First World War (Western Front) 。一つ目はハンブルグ・アルトナに存在する17世紀から19世紀まで運営していたユダヤ人墓地でスリナムと共同推薦する動きがあったものの、うまく連携が取れず、オランダやカリブ諸国と連携して再挑戦するようです。二つ目は第一次世界大戦(西部戦線)の追悼と追憶の場というやたらかっこいい名前がついているのですが、残念ながら審議の場に登場することはありませんでした。これは前回述べた負の遺産、戦争遺産の概念が関わってきます。この第一次世界大戦に関する遺産群はいわば比較的最近の戦争に関する者であり、兵士たちの墓地が構成資産に含まれている関係で高度に政治的なものとなっています。このため、世界遺産登録決議がこれからの近代戦争遺産の扱い方の判例となるとして注目を浴びていたわけです。しかし諮問機関のICOMOSが勧告を出す前に「近代戦争への審議にはもっと時間をおくべき」という声明を出したことで申請が見送られたものと思われます。

 

今回は議論が見送られたものの、いずれはこのような政治的決断を迫られることに違いはないでしょう。このとき大事になってくるのが世界遺産があくまで中立的なものである、ということではないでしょうか。近年でいえば、パレスチナが申請した遺産が世界遺産となったことで事実上UNESCOがパレスチナを国として認めたこととなり、現在アメリカはユネスコを脱退しています。かつてはこのような政治判断を避けるため、たとえばエルサレムの歴史地区はヨルダンの代理申請という形で世界遺産になっています。

 

顕著な普遍的価値を認めつつ、世界遺産を政治判断の場として使わないということが重要になってくるのではと思います。

 

ではこのシリーズはいったんこの辺で

世界遺産101: 登録基準6

昨日の続きです。

 

前回は世界遺産登録までの流れや、その登録基準についてみてきましたが、登録基準6について。

この登録基準6は「 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの」なわけですが、これって結構広いことを言ってますよね。実際、登録基準6に当てはまる遺産は「文化交流の証拠」や「ある文明のまれな証拠」、「時代を例証する建築様式」、など他の登録基準と合わせて申請されることがほとんどです。

では逆に、登録基準6だけで申請される遺産とは何なのでしょうか。普遍的な意義を有するものの、文化交流や文明を象徴するとはいえない出来事の象徴、そう、いわゆる「負の遺産」です。一般に負の遺産とは、過去に起こった繰り返されてはいけない過ちを象徴する遺産の通称で、ビキニ環礁や原爆ドームなどがこれにあたります。そしてこの原爆ドームこそ現在の登録基準6の特別条件導入のきっかけとなったわけです。

原爆ドームは言うまでもなく、第二次世界大戦におけるアメリカの原子爆弾の使用を象徴する遺産で、科学の非人道的行為への使用や戦争の悲惨さを今に伝えています。この遺産が世界遺産委員会に持ち上げられたのが1996年なのですが、これに対する反発が多かったことは想像に難くないでしょう。アメリカは、登録内容から人類史上初めての核兵器使用を物語るという文言の削除を要求し、中国は議論から棄権。様々な紛糾の末、原爆ドームは登録にこぎつけたのですが、高度に政治的な問題になる可能性を考慮した世界遺産委員会はこれ以降の登録基準6の単独使用を禁止したのです。

 

しかし、しかし、話はここで終わりません。1999年、南アフリカがロベン島を世界遺産に推薦します。これはネルソン・マンデラらも収容された政治犯のための牢獄で、アパルトヘイトを象徴する負の遺産です。しかし、もちろん当時登録基準6だけでは申請できませんから、南アフリカは登録基準3(「文化的伝統、文明の証拠」)と合わせての申請を行います。この政治犯収容施設を文化的伝統と呼ぶのはいささか解釈が広すぎるわけで、これではルールが形骸化していると議論になったわけです。結果として、世界遺産相当な遺産をこじつけないと世界遺産申請できないルールが悪い、ということになりルールが緩和されました。

 

このような背景を経て、現在は登録基準6は他基準との併用が望ましいという指針になったわけです。

さてさて今日で終わると思っていた記事ですが、案外長くなってしまったので、明日シリーズの一端の最終回、今年の世界遺産委員会のおもしろ話について書きたいと思います。

ではでは、